現代と異世界は混ぜるな危険!?2つの名作で読み解くラノベの書き方!

ラノベといえば、現代社会、異世界ファンタジーの二択。
主人公の経歴などで変化をつければ、他の作品とはまったく違う!?
今回は、対照的になった名作2つを比較してみます。

現代と異世界の混ぜ方を変えてみた

剣と魔法がある、異世界ファンタジー。
どういう経緯でも、チート主人公の大活躍になりますが……。

「はたらく魔王さま!」は現代で貧乏ライフ

聖十字大陸エンテ・イスラから逃げ延びた、魔王サタン。
悪魔大元帥アルシエルと一緒に、六畳一間で貧乏ライフ!?
けれど、活力に満ちており、どこを見ても面白い!

真奥まおう貞夫さだおはマグロナルドへ行き、正社員を目指してのバイト。
もう1人の芦屋あしや四郎しろう(アルシエル)が家事をしつつ、魔王さまの行動に突っ込む。
ちゃんと、舞台による切り分け。

異世界のキャラが、お金と住所がないと生活できない現代日本へ。
苦労するのは一瞬で、マイナスからの再出発。
落ち武者だが、れっきとした魔王で、「貨幣制度は面白い!」と前向き。
バイトでは、巨乳JKの佐々木ささき千穂ちほが後輩として登場。

ラッキースケベに頼らず、ハーレムもなく、群像劇ながら秀逸!
「いずれ、エンテ・イスラへ帰る」という真奥と「ちーちゃん」のラブコメに、追跡者とのバトル。
どのキャラにも役割を与えられ、活き活きしています。

「勇しぶ。」は異世界で現代ライフ

魔王が倒され、勇者制度は廃止された。
その直前のラウル・チェイサーは「勇者になれなかった俺はしぶしぶ就職を決意しました。」と言う。
家電を売っている、マジックショップ・レオン王都店のスタッフとして……。

同じ業界の大手であるアマダ・マジックが汚い手段をとり、それに巻き込まれる。
いわゆる、お仕事モノ。
『はたらく魔王さま!』とは違い、ツッコミ役はいません。

夢を諦められないラウルは、生意気なフィノ・ブラッドストーンと出会う。
バイトの教育係として苦労しつつも、彼女の面倒を見ることに。
身につけた剣技を活かすなど、過去と現在のギャップに悩む。

勇者制度の闇を知り、モブ店員になっていたラウルは……。

現代と異世界のメリットを再認識した

現代日本は、誰が見ても分かりやすく、政治的なアプローチも。
異能バトルで存在しない公的機関をつけ加えるのが、一般的。
やりすぎたら警察や軍が出てくるため、匙加減さじかげんが難しい。

対する異世界は、だいたいファンタジー。
王侯貴族や宗教などの勢力との対決も、見どころの1つ!
転移か転生でチートをもらった主人公や仲間が暴れまくり、スカッとする展開へ。

『はたらく魔王さま!』は、魔王が現代社会に馴染む。
いっぽう、『勇しぶ。』では、異世界で日本と同じライフスタイル。

ほぼ同時期に、マルチメディア化。
魔王さまは、2021年にシリーズ累計350万部を突破しました!

2つの世界を同時に扱うのは難しい

現代と異世界を混ぜると、「結局、何なの?」と言われがち。
魔王さまと『勇しぶ。』は、それぞれ、別のアプローチ!

ナーロッパが標準であることは適切だから

スタンダードである、「王侯貴族がいて、現代とほぼ同じ文明」のナーロッパ。
周りの描写は、最低限に……。

異世界ファンタジーに求められるのは、主人公が「ざまぁ!」するところだけ。

リアル中世のように塩味のポリッジ(穀物のかゆ)や臭すぎるから香水としても、ドン引き。
魔石のような便利エネルギーで、快適ライフ♪

『本好きの下剋上 司書になるためには手段を選んでいられません』のような、逆手にとった作品もありますが。
たとえ貧乏でも、全体として現代と変わらないのが、異世界ファンタジーです。

魔王さまは六畳一間でも覇者!

『はたらく魔王さま!』が面白いのは、身元を偽った不法滞在者であること。
それも、風呂なしの六畳一間で二人暮らし!
真奥貞夫は好青年で、バイトを何度もクビになって、マグロナルドの店員に……。

芦屋四郎は、魔王さまの部下。
馬鹿にするなど、もってのほか。
対立する勇者エミリア・ユスティーナが愉快で、大手の契約社員でテレアポという立場。

しかし、どちらも元の世界へ帰れず、呉越同舟!?

人間らしい弱みを見せつつも、明るい。
2つの世界が織りなす群像劇は、いつまでも見ていたい!

家電店の主人公はひたすらに窮屈

『勇しぶ。』で勇者を諦めたラウル・チェイサーは、レオン王都店で働く。
現代と変わらない、家電量販店で……。

同じパーティにいたアイリ・オルティネートも、今は再就職。
就職氷河期としての就職難が、彼らを襲います。
どこも負け組オーラで、物語に入りづらいというか、世知辛いだけ。

ラウルは目の前にある家電を売り、魔王の娘フィノの教育係というだけ。
平社員で何の権限もなく、店長などの顔色をうかがう日々。

男キャラは最低限で、女に囲まれたハーレムですが。
隣のコンビニで弁当を買い、えさのように掻きこむ姿を見て、面白いでしょうか?

主人公に明るい希望やライフがあるか?

魔王さまは、明るい将来と楽しい日々。
けれど、『勇しぶ。』のラウルに待つのは、憂鬱になるだけの仕事……。

現代社会を尊重する勤労青年に共感

真奥貞夫は、苦労人。
六畳一間で暮らしつつ、真面目に働いている。
その点は、『勇しぶ。』のラウル・チェイサーも同じですが……。

「勇者を諦めた」という冒頭は、面白かったです。
しかし、戦わない販売員で、しかも店長や客にヘコヘコする。
『はたらく魔王さま!』で楽しみだった自宅パートも、ゾッとするほど無機質。

ヒロインは魔王の娘で、愛玩するペットと同じ。
ラウルと対等に話すことができず、手間がかかる存在。
映像と声を当てたら、目を覆いたくなる惨状です。

現代にいる魔王さまは、他人を尊重する勤労青年で、周りも対等。
いっぽう、『勇しぶ。』は主人公がモブに徹して、あらゆる人物に気を遣うのみ。

自分の過去を否定した社畜に絶望

ラウル・チェイサーは、過去を否定することで、働いている自分を肯定。
ゆえに、勇者制度を悪者にするしかない。

現代と同じ家電量販店にしたから、社畜オーラがぷんぷん!

命懸けで築いてきたパーティーのきずなや、積み重ねた力は!?
やっていることは、誰でもやれる店員!?
偉そうにできる相手は、何も知らないバイト店員のフィノにだけ。

ふたを開けてみたら、派遣会社がPRに使いそうな賛美。
真奥貞夫は「今後の自分のため」という夢があったのに、元勇者は絶望するだけ。

実在する大企業をバカにしたら訴訟

どちらも、大企業をもじった名前を出しています。
同じ業種で、誰が見ても分かる。
フィクションであろうと、悪の権化にしたら訴訟か、様々な嫌がらせです。

『はたらく魔王さま!』のマグロナルドは雇ってくれたうえ、時給アップ♪
正社員志望だから、敵対する理由がありません。
ところが、『勇しぶ。』は違います。

理由はともあれ、アマダ・マジックは商売敵しょうばいがたき
主人公たちがその陰謀を暴き……あれ?

あ、はい!
実在する大企業がモチーフだから、「ざまあ!」して潰すとか、やれないですよね。

異世界は好きなだけ暴れられる舞台

異世界ファンタジーは、好き放題するため。
現代と同じ倫理観になったら、そのメリットが潰されます。

独自性のない小売店にいても無意味

『勇しぶ。』は、主人公がモブ。
少し強いが、自分でそれを否定して、ただの店員へ……。

家電量販店は、仕入れて売る。
剣を振るうだけの男には、まったく向いていない。

錬金術ができるとか、技術チートもなく。
ラウル・チェイサーは、売り場で接客するだけ。
上下関係があるから、女だらけでウハウハにもならず。

何のスキルも身につかない職場ゆえ、魔王さまのような夢がない!
剣と魔法がある異世界で……。

モテモテで面白く最強という魔王さま

魔王さまは、現代日本で大人しく過ごす。
何度もクビになったが、描写されるのはマグロナルドで巨乳の後輩に慕われる場面だけ。

昔に流行った、フリーターの理想。
それが、魔王さまです。
エンテ・イスラに帰るから、将来の問題もなし!

あの時期にだけ、許された空気。
今となっては、このノリで書くことは難しいでしょう。

美少女にモテモテで、世界をまたいだラブコメ。
『はたらく魔王さま!』が売れたのは、彼が接している範囲でスペシャルだから。

勇者ならば傭兵や警備で需要があるはず

『勇しぶ。』で納得できないのは、勇者認定の直前なら、中堅ぐらいであること。
その経歴を活かし、傭兵や警備をすればいい。
平和な日本ですら、需要がありますよ?
なくても郊外でスローライフをすれば、いいのでは?

レオン王都店の正社員ありきで、この設定が響いている……。

レオンを否定できない以上、同業の大手であるアマダも潰せず。
「安く仕入れて高く売る」という姿勢は、まったく同じ。
アマダを非難すれば、自分も下げていく。

家電量販店の売り子でいる限り、主人公はモブのまま。
たまに戦っても、すぐ店員に戻るため、「業務中に何やってんの?」というだけ。
店をいったん辞めるか距離を置かないと、あまりに視野がせまい。
全てを俯瞰ふかんしたうえで「やっぱり、あの店がいい!」ならば、納得できるんですけど。
店員としても、売上貢献のアイディアとか、そういう描写もないから、尚更。

アニメ化で明暗がはっきりと分かれた

同時期にデビューして、アニメ化も同時期。
だからこそ、明暗がはっきりと分かれたのです。

社畜にされる魔王の娘を見ていられない

『勇者になれなかった俺はしぶしぶ就職を決意しました。』は、レオン王都店が全て!
過去のアイデンティティーを捨てたラウルは、社畜であり続ける。
だから、魔王の娘フィノも洗脳します。

……え?

生意気な娘を躾けることは、分かります。
でも、ひたすらに挨拶をさせる光景は、ちょっと見ていられません。

お金がないと生きられないから働くのと、職場のために滅私奉公はまったく別。
フィノに必要なのは保護者で、常識を教える大人のはず。
それを利益第一の企業に浸けるのは、恐ろしい。

六畳一間とキャラの顔芸が最高!

『はたらく魔王さま!』は、東京のフリーターの良いところ取り。
最後は異世界へ逃げるから、今を楽しめばいい!

どのキャラも自己主張が激しく、顔芸によって楽しめる。
主人公に媚びるだけのハーレムじゃないから、現代社会とマッチング。

最終的な目標と、目の前のやるべきことが、上手く並んでいます。
マグロナルドの店長はいても、「嫌なら辞めればいい」の精神。
だから、楽しむほうも気楽。

アニメ1期は、妙なエピソードで終わりましたが、それも御愛嬌。

とにかく主人公は最強であるべき

フリーター至上主義の『はたらく魔王さま!』と、氷河期の正社員としての『勇しぶ。』。
どちらも異世界を絡めた、お仕事モノ。

真面目に仕事をするのなら、現代社会が有利。
発想は面白いですが、『勇しぶ。』はレオン王都店と一体化した時点で終わり。
対して、いざとなれば無双するから、ただのバイトの魔王さまが輝く。

どういう設定、世界観であれ、主人公は最強でなければいけません!

主人公が強くなければ、蹂躙されるだけ。
大きな陰謀にぶつかったら、力で叩きのめすしかない。
その力を捨て、店員であることを選んだラウルは、色々と細すぎます。

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